TECHTILE展 #03「触覚のリアリティ」に行ってきた。
どうしても行きたくて最終日に滑り込みで体験しに行ってきただが、大興奮して帰ってきた。本当に興味深く刺激を受けたので、たっぷり紹介したい。
エキシビジョンの内容
TECHTILE展 #03は、日本バーチャルリアリティ学会 アート&エンタテインメント研究委員会の主催で行われている触感デザインのエキシビジョン。一昨年から続いていて、今年が総仕上げだったようだ。
触覚のリアリティを研究・再現し、触感のコピー&ペーストまでをもしてしまうという素敵な分野を「触感デザイン」と呼ぶらしい。
Tactile Cave (空間・VIデザイン:NOSIGNER)
会場の壁・天井・床はすべて銀色の触覚標本で覆われていた。西麻布の街の中から約120種類もの触覚をアルミ箔に写し取ったものを空間化することで、会場を無機質な視覚と有機的な触覚で満たすという試み。確かに見覚えのある凹凸なのに、テクスチャが違うだけでまるで違う世界のように感じた。
imitated beach / environment inn (高橋琢哉)
会場にはずっと音が流れていた音は、高橋琢哉さんによるサウンドスケープデザイン展示。海や水、鳥や虫の音をテーマに、シンセサイザーや簡単な楽器などを使って素材を作ったそうだ。サウンドスケープに包まれていると、会場がひとつの環境として構成されているのが感じられる。
紙製の畳 (大建工業株式会社)
紙を織って作られた畳。耐久性・耐変色性、撥水性などを強化することができるそうだ。
人肌コレクション(慶應大/山形大)
人肌のような触感を再現した人工皮膚サンプル。いろんな「肌っぽさ」をデザインしたコレクションである。
『人の皮膚構造を模倣して、柔らかいシリコンゴムの深層の上に硬く薄い表層を形成することにより、皮膚独特の「はり」を実現』とのことで、蜂の巣状の凹凸によって粗さ、摩擦、親水性を制御しているそうだ。
個人的には、体温と同じ温度で試してみたかったなぁ。温度がないだけで、やっぱり生きてる皮膚っぽくはないというか、触って安心するという感覚より、ざわっと鳥肌が立つような感覚に近かった。
それも触感がよく似ているからこそ生じる本能的な違和感なのかもしれない。温めたら気持ちいいのかもしれない。触覚において気持ちいいか気持ちよくないかって項目は最大級に大事で、それ以上に勝る生理はない気がする。
Addictive Handle (小島雄一郎+橋本悠希+梶本裕之)
で、体験してみて一番気持ちよかった展示が、Addictive Handle。モーターの振動を制御することで、手動鉛筆削りの感覚を再現した作品だそうだ。鉛筆削りのシンプルに匂い立つアフォーダンス。学習された記憶。こんなものが目の前にあったら、どうしたって回さずにはいられない。
実際に回してみると、六角鉛筆を削っている感触以外の何物でもない。丸鉛筆じゃなく、六角鉛筆。尋ねると、やはり六角鉛筆を想定して作られているそうだ。言われなくてもそれがちゃんと分かるぐらい、しっかりした感触だった。
モーターが出す物理的なゴリゴリ音も鉛筆削りの音にとても近いし、先のシリコンゴムと違ってフィードバックに大きな齟齬がないので、見えない六角鉛筆がそこにあるとしか思えない感触。部屋のデスクにこんなものがあったら、無心に回してしまいそう。
鉛筆削りだけでなく、回すものなら何でも再現できるとのこと。コーヒー豆がミルの中でパチパチ砕けていく感触も再現済だそうで。生クリームを泡立てる感触も可能だということで、驚いた。
Vib-Touch:指先で感じるインタラクション (昆陽雅司+土屋翔+岡本正吾+山内敬大+石井優希)
Vib-Touchというのは、十字キーのような小さなポインティングデバイスで触力覚の呈示が可能なモバイルインタフェースだそうだ。下の画像と動画に出てくるPSPのようなものがVib-Touch。
Vib-TouchはVib-techという「いつでもどこでも手軽に触覚を利用する技術」を使っているそうだ。
モバイル機などでゲームをするとアクションに対してバイブレーションが付いたりするが、Vib-Touchはそうしたフィードバックの比ではなく、もっと精密な感触で物の形や面を感じることができるデバイスだった。平らな床の上を動かしている時と浅い水辺で動かしている時では指先にかかる力も変わり、画面の中の環境を感じることができる。
感心するのが、振動刺激のみでそれを再現しているということ。加えて、特別な装置でなく、何にでも実装できそうなポインティングデバイスでそれが実現できていることだ。らくらくホンのようなデバイスに搭載するのも難しくなさそうな気がするし、UIに応用すればとても豊かなフィードバックの提供が可能になりそう。
今回展示された作品の中でも、ウェブコンテンツと特に親和性の高い内容だと思った。もしかしたらそういう研究がすでに進んでいるのかもしれないし、これからあらゆるデバイスへ応用されることを期待したい。
GravityGrabber (南澤孝太+舘暲)
GravityGrabberは、空の箱やグラスの中にまるで何かが入っているかのような感覚を提示するシステム。右手の人差指と親指に装置を装着すると、実際には存在しない物体の重さや慣性質量を感じることができる。私はここでテンションが一番上がった。
はじめはコツンとした丸い球がひとつ入っている感触なのだが、スイッチを切り替えると同じ質感の球が2つに増えた。また、スーパーボールのスイッチに切り替えると、アクリルの箱の中で何度も弾むゴムの感触を感じた。
虫というスイッチはまさに鳥肌もので、ドロップの缶の中を昆虫が動き回っているような感触! 怖くてドロップの缶が開けられなくなるレベルでリアル。
GravityGrabberは2本の指だけに装着するデバイスだが、これが手袋やウエットスーツのような形のデバイスになったとしたら、いわゆるバーチャルリアリティの世界が本当に体験できるんだろうなぁとワクワク。でも、虫みたいな例は怖すぎるな。
とにかく刺激的で楽しい体験だった
想像していたよりもこぢんまりとしたエキシビジョンで、内容はとてもエキサイティングだった。これからの可能性がぎっしり詰まっている感じ。なんだか近未来っぽい。時間が許せばワークショップにも出てみたかった。
こうしたバーチャルリアリティによって触覚を再現するデバイスを、ハプティックデバイスというらしい。私が訪れた時には展示していなかったのだが、River Bootsという川の中を歩いているような体験ができるハプティックデバイスも展示されていたようだ。そちらも体験してみたかったなぁ。
これからのインタラクションデザインには、物理学は必須だなぁ、と痛感。触覚に限らず、視覚的なインタラクションを取っても、より自然なふるまいであることや心地よい動作であること、それを追求する点は同じ。
デバイス取っ払って、早く頭に電極突っ込もうよ! と思ったり思わなかったりするが、まずは様々なデバイスに応用可能な技術が育ってくれないことには、そこまで辿り着かない。研究者の方々にも技術者の方々にも頑張ってほしい。