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蠍の輪郭を見つめてふける思惟の痕跡

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Service Design Hong Kong 2017 に参加して(2)――印象深い参加体験の分析

2017年10月19日・20日の2日間、香港で行われた Service Design Hong Kong 2017 に参加してきた。カンファレンス概観と感想についてはひとつ前の記事に書いたが、こちらでは印象深い参加体験についての分析を残しておきたい。

前記事から繰り返し述べているように、Service Design Hong Kong 2017 での一連の体験は本当に印象深かった。

休憩時間の様子

自分なりに振り返ってみた結果、大きく分けるとふたつの理由があるように思う。まずひとつはカンファレンスに散りばめられた参加度を高めるしかけが大きく作用したこと。もうひとつは、日本にいるときとは違う文化に触れたこと。

そのふたつについて、以下でまとめてみる。前置きとして、自分自身の英語が不自由で心が折れ気味だった(2日間で都合4回心が折れた)状態にも関わらず、以下に挙げるようなポジティブな感覚を得たのだということを強調しておく。

参加度を高める5つのしかけ

カンファレンスのプログラムが綿密に練られていて、そのことに素直に感嘆した。しかけはざっくり5つくらいに分類できそうだ。

  • 質問タイムを活性化させるしかけ
  • 偶然と即興を生むしかけ
  • 身体を動かし気分転換するしかけ
  • 開催地の魅力を伝えるしかけ
  • 冒険心をくすぐるしかけ

質問タイムを活性化させるしかけ

トークごとの質問タイムでは、さまざまな工夫が凝らされていた。前半と後半では違うやり方で盛り上げられた。どのタイミングで誰が言った言葉か忘れてしまったが、「Questionning is Part of Design」というフレーズを覚えている。

最初はふせんに各々の質問を書き出し、それを他の人と交換した。交換した他の人の質問がおもしろかったら、手を挙げて発言する。ずっとその調子でいくのかなと思いきや、途中で質問タイムの形が変わり、ランダムに質問者が選ばれる形になった。

他の人の書いた質問を読み上げる参加者

Ocean Park Hong Kong のときには海洋公園にちなんで、ジョーズのテーマを流しながらサメのぬいぐるみを回し、音楽が止まったときにサメを抱いていた人が質問者になった。また、Ovolo のときにはホテルサービスにちなんで、枕投げで質問者がピックアップされた。

枕を受け取って質問をする参加者

他にも救急車やパンダなどのアイテムが登場し、楽しい雰囲気で質問タイムが活性化されていた。

偶然と即興を生むしかけ

カンファレンスではアクティビティーとして無作為に選ばれた人たちが前に出て Yes/No クエスチョンのアンケートに答える Active Data というコーナーと、ペアになって How Might We... 形式のお題に対してアイディアを考える Creative Mix というコーナーがあった。

Active Data で実際に悩みながら Yes/No サイドに移動する人を見ていたら、設問に対してリアルに考える「人」の顔がわかった。数字だけのデータでは得られない感触だし、即興的かつ人間的に可視化されるってこんなにおもしろいんだな、と改めて実感した。

Active Data と称してYes/Noアンケートをする様子

Creative Mix では、あらかじめ全員に配られたノートにマッチング用の色シールが貼ってあり、同じ色の人を探して一緒にアイディアを考えた。いろいろなアイテムが無駄なく活用されていた感じ。

全員に配られたノートとチケットホルダー

また、椅子の下にも工夫がしてあり、当たりの椅子に座っていた人にはプレゼントがあるなどのサプライズも提供されていた。サプライズ要素もこのしかけの一部としてカウントしておきたい。

身体を動かし気分転換するしかけ

これについては苦手な人もいるかもしれないが、長い時間に渡るカンファレンスではいい息抜きになる。ヨガセッションが一般的だが、Service Design Hong Kong 2017 ではダンスタイムもあった。

ダンスと言っても難しいものではなく、スクリーンに表示される単語をイメージして好きに身体を動かすだけ。動きかたに正解があるわけでもないし、よくわからなければ人を真似すればいい。

ダンスタイムの様子
Photo by Patti Hunt

わけもわからずダンスしはじめるのだけど、音楽に合わせて身体を動かしているとなんとなく楽しくなってくるし、気が付くと笑顔になっているから不思議。

当たり前のようだが、このとき私は踊っていたので、写真を撮れていなかった。そのため、ダンスの写真は Facebook から Patti さんのものを拝借している。

開催地の魅力を伝えるしかけ

参加者に配られるチケットホルダーには、2日間のカンファレンスに必要な情報が詰め込まれ、とても便利なものだった。それだけでなく、観光情報などのカードを追加できるようになっている。追加のカードはおやつコーナーに置いてあり、自由に取ることができた。

チケットホルダーに追加できるカード

もうひとつ大きかったポイントは、開催場所が一箇所だけではなかったこと。サービスデザインにゆかりのあるスポンサー企業やカフェが場所を提供し、参加者はそこに自分たち自身で移動した。

離れた場所間を移動する必要があるため、2日間のすべての日程に参加した人は、中環、湾仔、太古の3つのエリアを歩いたことになる。街の空気を感じながら歩けるのは新鮮なので、移動をわずらわしく感じたりはしなかった。

他の参加者と一緒に街を歩く

歩く際には他の参加者とおしゃべりをしたり、道順を確認したりしながら進んだ。ワークショップ中は話さなかった人たちともなんとなく話す機会ができて、それもまたよい点だった。

冒険心をくすぐるしかけ

知らない場所に向かって移動するという過程そのものもちょっとした冒険になるのかもしれないが、その中でもさらに小さなしかけがあり、ちょっとしたミッションやクイズなどが出された。ミッションをクリアすると、次のミッションが与えられ、最終的には夜の Drinks の場所情報をゲットするという形。

ミッションが書かれたプリント

ランチ時の話題としても機能していて、ミッションの内容をどのくらい正確にこなすべきか、トンチ的なアイディアで回避できるのではないか、などなど、他の参加者とさまざまな会話を交わしたのを覚えている。

ランチ会場での様子

会場を移動して新たにグループを組むときにも、はじめに一緒にクイズを解くことがアイスブレイクになり、なんとなくそのままの勢いでワークに入れたりという効果もあった。

しかけのおかげで交流がたくさんできた

参加度を高めるしかけは、そのまま参加者同士を交流を生むしかけでもあったと思う。普段なら話しかけることができずに時間が経ってしまう場面でも、口実があるので話しかけられるし、そうやって会話をすること自体がウェルカムな雰囲気に満ちていた。

だから、英語が不自由で4回心が折れた事実があるにも関わらず、各日の打ち上げもとても楽しく参加できたし、たくさんの人と意見を交換することができた。自分の内向的なパーソナリティーから言えば、快挙と言ってもよいのではないか。

最後のDrinksの会場になったお店の様子

あのすばらしいカンファレンスプログラムは、高いホスピタリティーの表れだったのだろう。私の心の中には、ほどよい緊張感と不思議な開放感のバランスが常にあった。

カンファレンスの中に存在した要素を改めて見つめると、ワークショップ的な要素「身体性」「即興性」「協働性」「自己原因性感覚(自分を場面にひもづける感覚)」のすべてを持っていることがわかる。同じように、「感情」「直感」「知性」「身体」すべてを揺さぶられる瞬間があった。雑だけど、図にするとこんな感じ。

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高い参加度には高い満足度が紐づくということを身をもって体感し、それゆえに印象深い参加体験として心に残った2日間だった。

日本とは違う海外の文化

もうひとつの理由は、日本にいるときとは違う文化に触れたことだ。日本の外で生活したことがない私にとって、それは大きい体験だった。

当たり前だがすべて英語で行われるので、私はついていくのに精いっぱい。あまり満足にやり取りができたとは言えない。しかし、それでもワークショップに参加してみたことで、わかったことがたくさんある。

参加者の姿勢は、スピーカーから正解を乞うというより、対等の立場で意見やフィードバックを言い合うのが彼らのありようなんだなと感じた。自分自身の経験と照らしながら、ファシリテーターや他の参加者からどんなインスピレーションを得るかを重要視している。会話のやり取りはそんなふうに聞こえた。

ファシリテーターは冷静に場を見ている印象。自信に満ちた態度で場をホールドしている。プログラムがあまり作り込まれていないのも興味深くて、参加者が想定外の答えを出してきても受け入れる用意がある点が見習うべき部分だなと思った。

ワークショップの場所になったカフェでの様子

海外のワークショップを何度か体験して思うことは、対話の文化の違いがダイレクトに現れているということ。文化が違えばプロトコルが違う。特に日本では限定的なコンテキストを生きているのだということに気付かされる。

また、日本ではまず相手を知ることやそのメソッド・プロセスを強調されることが多いが、今回触れたUSのアプローチでは、自己とコントロールすることで相手のことも理解するという因果があるように思う。

ここで得たものを持ち帰るとするなら、日本でフィットするやりかたにチューニングする方向性もあるし、新しいアプローチからマインドを変えてみる方向性もあるかもしれない。いろいろな可能性を広げてみたい。

心が折れても楽しかった

長くなったが、Service Design Hong Kong 2017 はそれだけ多くのものを私の中に残してくれた。ひとつ前の記事で「得られた知識の量より体験の質が得難いものだった」と書いたのだが、本当にその言葉のとおりだ。

カンファレンスで知り合った人に、地元のごはん屋さんに連れていってもらったのもいい思い出。普段なら食べなさそうなメニューも食べることができたし。

知り合った人に地元のお店に連れて行ってもらった

最後の最後には、もともと知り合いだったメンバー+αで打ち上げをした。私はカンファレンス参加以外の余裕がない日程で参加していたので、これが香港楽しみ納めとなった。香港自体は3回目の訪問なのだが、この相当にタフな2日間は特別なものだった。打ち上げのときの開放感といったらなかったなぁ!

知り合い同士で最後の打ち上げ

2日間を通して、特にインフォバーン京都のエスベンさん、山岸さん、SDN Taiwan の Arthur の3人には大変お世話になった。本当にありがとうございました。


参考リンク

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