蠍は留守です考

蠍の輪郭を見つめてふける思惟の痕跡

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高齢運転者標識もみじマークの代替案について考える

警察庁が18日付の情報として「高齢運転者標識のデザインについての意見募集」を掲載している。

道路交通法によると加齢に伴って生ずる身体の機能の低下が自動車の運転に影響を及ぼすおそれがあるときは、高齢運転者標識を付けて普通自動車を運転するように努めなければならないとあり、表示しなくても違反にはならないが、高齢ドライバーと周囲のドライバーの交通事故防止を目的としているそうだ。

高齢運転者標識の「もみじ」マーク(自動車の運転者が表示する標識(マーク)について:参照)は「枯葉マーク」などど揶揄され一部で不評のようで、代替案が公募されたようだ。そんなもみじマークについて、自分なりに考えてみた。あくまで私個人の意見なので、主観が多分に含まれている。

代替案の要件

「高齢運転者標識の様式に関する検討委員会」では、以下の4項目に沿って代替案を選定したそうだ。

  • ベテランドライバーを象徴し、高齢者が誇りを持って自らの意思で自動車に表示したくなるもの
  • 高齢者を含むすべてのドライバーにとって親しみを感じるもの
  • 夜間や離れた場所からでも見やすいもの
  • 既存の様々なマークと混同を生じないもの

高齢運転者標識のデザインについての意見は平成22年6月18日(金曜日)から平成22年7月17日(土曜日)まで募集しているそうだ。概要は警察庁のサイトにある高齢運転者標識のデザインについての意見募集PDFで確認できる。

現行「もみじ」マーク

現行もみじマーク

秋の美しい紅葉のイメージを図案化し、熟練した高齢運転者を表現したもの。

若葉マーク

初心者が表示義務を持つ「若葉」マークと比較すると、形の面でも色の面でも対称性がある。運転者標識としての共通性が見て取れるし、初心者とベテランの対比も表現されていると思う。

色は2色使用。彩度にも明度にも適度な差があり、モノクロで見ても「もみじ」マークであることが分かる。膨張色かつ目を引く色とも言われている黄色が広い面積で使われているので、視認性は高いのではないかと思われる。

参考)色覚特性を持つ運転者から見た場合の見え方シミュレーション

現行もみじマークのシミュレーション結果

代替デザイン案2

代替デザイン案2

四つ葉のクローバーをモチーフとし、シニアの「S」を図案化したものだそうだ。現行のマークで使用している色に加えて黄緑と深緑が加わっている。

身体障害者標識

これを見て真っ先に思い浮かんだのは身体障害者標識だった。あちらもモチーフはクローバー。見分けがつかないほど似ているとは言えないが、なんとなく被っている感がなくもない。

既存の様々なマークと混同を生じないものという意味で、モチーフの被りは避けた方がいいような気もしますが、図案としては見やすくて可愛いらしいと思う。

参考)色覚特性を持つ運転者から見た場合の見え方シミュレーション

代替デザイン案2のシミュレーション結果

代替デザイン案3

代替デザイン案3

さまざまな人生を表現する色とりどりの線が丸く柔らかい円を描いている様子を図案化したものだそうだ。

夜間や離れた場所からでも見やすいものという点では、白い面は良く見えるのかもしれないが、細い線の部分の視認性がどのぐらい確保できるのか微妙な気もする。

実際の標識には蛍光塗料などが塗られることを想定しても、夜間などに見た時に白い部分ばかりが目に入ってしまいそう。白い部分が汚れたらどう見えるのかとか、いろいろ考えてしまう。

何より、パッと見て線の数と色の数が把握できないというのは、図案として複雑すぎるように思う。丸という形も分かりやすいかもしれないが、同じ丸を使った市販ステッカーなどがたくさんある気がする。

参考)色覚特性を持つ運転者から見た場合の見え方シミュレーション

代替デザイン案3のシミュレーション結果

代替デザイン案4

代替デザイン案4

交通社会での豊富な経験をもつ高齢ドライバーを稲穂の実とハートを支える手のひらに例えて図案化したもの。

聴覚障害者標識

これもパッと見た時に、一瞬だけ聴覚障害者標識を思い起こした。よく見れば全く違うものだが、形と色合いと左右対称な形の刷り込みは意外と大きい。

完全に私だけの感覚かもしれないが、既存の様々なマークと混同を生じないものという点で、他の表示義務標識と混同してしまいそうなのが不安。

参考)色覚特性を持つ運転者から見た場合の見え方シミュレーション

代替デザイン案4のシミュレーション結果

代替デザイン案5

代替デザイン案5

ゆとりを持って接して欲しい想いから「鳥」に「ハート」、「手」のモチーフを組み合わせて図案化したものだそうだ。

まず最初に思ったのが、交通に関わる標識として色が適切なのかどうか。道路標識の多くは水色っぽい青だが、あの理由は夕暮れ時などのプルキンエ現象を利用して視認性を確保しているから。

その意味では、朱色のような色は沈んでしまって見えづらそう。また、1色塗りということで、標識を掲示する自動車の車体色によっては、同化してしまう恐れもありそう。

AEDマーク

あとこれも酷似ではないが、財団法人日本救急医療財団のAEDマークとちょっとだけフォルムが似ている。遠目に見たら一瞬間違えてしまいそうな気はする。

可愛らしさでいったら私はこの図案が一番好きだが、可愛らしさと標識機能を分離して考えると、やはり機能として不安を感じる。

参考)色覚特性を持つ運転者から見た場合の見え方シミュレーション

代替デザイン案5のシミュレーション結果

まとめ

現行もみじマーク

自分個人の考えを言うと、標識目的の図案としては現行の「もみじ」マーク続行がベストなんじゃないかと感じる。

「若葉」マークとの対比も含め、形と色の両方で分かりやすい特徴を持っているので、認知しやすい図案だと思う。もちろん、すでに馴染んでいるために分かりやすく感じるという学習効果の側面は大きいのかもしれないが、その学習効果だって軽く見てはいけないものだと思う。

そもそも要件にある最初の2つ、

  • ベテランドライバーを象徴し、高齢者が誇りを持って自らの意思で自動車に表示したくなるもの
  • 高齢者を含むすべてのドライバーにとって親しみを感じるもの

というのは、図案の可愛らしさだけで解決する問題なのだろうか? 元々もみじではなくクローバー等がモチーフであれば、抵抗なく普及していたのだろうか? その辺り、難しいところではあると思う。

デザインするということ

実際、マークだけ変更しても、「高齢者を表すマーク」だというだけで嫌がる運転者は出てくるように思う。高齢運転者や周囲の運転者を守るための標識なのに、当事者に当たる運転者に拒否反応が出るというのは、悲しいことだけれど。

それを解決・打破するためのデザイン公募ということなのだろうが、「一般公募すること=コミュニケーション」と言い切るのはちょっと違うのかなとも感じる。本当にそれだけで解決する問題かどうか、議論されたのだろうか。

もちろん、もしも図案ひとつで内在する問題が全て解決するならば、そんな素晴らしいことはない。ただし「デザイン=お絵描きすること」ではないし、本来もっと必要なやり取りやコミュニケーションがあるべきではないかと思うのだ。

デザインやリデザインをする時、どの段階から何を考え、解決してゆくべきなのだろうか。「高齢運転者標識のデザインについての意見募集」を通して、そんなことを考えさせらた。


参考URL

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