蠍は留守です考

蠍の輪郭を見つめてふける思惟の痕跡

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第2回「だれもが使えるウェブコンクール」シンポジウム

第2回「だれもが使えるウェブコンクール」シンポジウム 「だれもが使える」ウェブから、「だれもが必要とする」ウェブへ」に行ってきた。今回はIBMフェローの浅川智恵子さんのご出演ということで、大変楽しみにしていた。浅川さんに関する過去エントリも何度か書かせてもらっている。

以下に自分用メモの一部を抜粋して載せておく。抜粋とはいってもかなり長いメモの羅列なので、かなりのボリュームになっている。

アクセシビリティは世界を変える技術へ

浅川 智恵子 氏(日本アイ・ビー・エム株式会社 東京基礎研究所 IBMフェロー) 基調講演

ICTにおけるアクセシビリティとは?

高齢者や障害者など心身の機能に制約のある人でも、年齢的・身体的条件に関わらず、ICT(=情報技術)で提供されている情報・サービスを利用できること。高齢者・障害者の社会参加を実現。

ウェブを視覚障害者の新たな情報源に

1997年、IBMホームページリーダーが発売されたことにより、社会参加の道具としてのインターネットに大きな期待が寄せられた。

音声合成技術の進歩

  • 2004年、抑揚のある自然な女性の声
  • 2010年、滑らかな会話で、感情音声合成もできる
  • 感情なども表現できるようになったが、パラメータは人力で設定しなくてはならない
  • 今後の自動化技術に期待

ソーシャル・アクセシビリティ・プロジェクト

視覚障害者とボランティアのソーシャルネットワークを通じて、元のコンテンツを変更することなくウェブアクセシビリティの問題を修正するシステム。

  • アクセシブルでないウェブページを発見
  • そのウェブページの問題点を報告
  • 報告されたウェブページの問題点を閲覧
  • ウェブページの問題点を修正(修正データの作成)
  • 修正データによってアクセシブルになったウェブページを閲覧

YouTubeでの紹介動画

  • IBM Social Accessibility Projectの紹介 - YouTube
  • Social Accessibility Project, 、準備と使い方(ユーザー編 パート1) - YouTube
  • Social Accessibility Project, 準備と使い方(ユーザー編、パート2) - YouTube
  • IBM Social Accessibility Project、準備と使い方(ボランティア編) - YouTube

ウェブアクセシビリティ向上システム - 鳥取県庁

  • ソーシャルアクセシビリティの技術を鳥取県庁の公共ウェブサイトに活用
  • プログラムや開発者でなくても修正作業が可能、障害者の新たな職種に
  • 総務省「ICTふるさと元気事業」のひとつとして実施

新たな課題 - マルチメディア

映画

  • 字幕:12.0% ※2008年に公開された邦画のうち、字幕が提供されていた割合
  • 副音声:0.9% ※2008年に公開された邦画のうち、副音声が提供されていた割合

放送

  • 字幕:NHK総合 49.4%、在京民放 42.3% ※平成20年度の総放送時間に占める字幕放送時間の割合
  • 解説放送:NHK総合 5.6%、在京民放 0.4% ※平成20年度の在京キー局の地上波における解説放送の割合

インターネット

  • 字幕:0.2% ※オープンコースウェア(教育用コンテンツ)における字幕付与率(1417本中2本)
  • 音声ガイド:0.0% ※主要な動画配信サイト、教育用コンテンツのサンプリング調査の結果

合成音声による音声ガイドの制作・配信

  • 音声合成技術によりコストを下げて、オンライン動画音声ガイド(副音声)の普及を促進
  • ツール開発 + 標準化(HTML5)への働きかけ
  • 現在の音声ガイド:録音:熟練したナレーターと録音設備が必要 ⇒ 音声合成により全て削減することが可能
  • テキスト作成:音声ガイド台本を作成するためには、情景を短い時間で説明するスキルが必要 ⇒ ツールにより削減することが可能

アクセシビリティは世界を支える技術へ

  • 世界人口:65億人
  • 世界の障害者人口:6億5,000万人
  • 世界の高齢者人口:5億600万人
  • 世界の非識字者人口:7億7,000万人

世界各国のアクセシビリティ研究

  • バーチャル白杖
  • バーチャル点字ブロック
  • 目の見えない人が運転できる自動車 など

文字の読めない住民に対するサービス提供技術

  • IBMインド基礎研究所の Spoken Web の例
  • サービス提供者が列車時刻表などの情報を収集
  • Spoken Webにアクセスして(電話をかけて)情報を録音・公開
  • 電話番号とアクセス方法を宣伝
  • ユーザーは電話をかけて必要な情報にアクセス
  • Spoken Web - YouTube

音声によるAR技術 〜ささやきインターフェイス〜

  • 解析技術を応用して生成した情報を伝達
  • 音声による拡張現実感(Augmented Reality)技術

権利としての情報アクセス

  • 国連障害者の権利条約 第九条 アクセシビリティ
  • 条約としては2008年に発効
  • 世界96カ国が批准
  • 日本は批准に向けた検討を進めている

世界各国の法律・ガイドライン

  • 国連:Convention on the Rights of Persons with Disabilities - Wikipedia
  • W3C:Web Content Accessibility Guidelines (WCAG) 2.0
  • ISO:ISO 9241-171 Guidance on software accessibility
  • カナダ:Canadian Human Rights Act - Wikipedia
  • アメリカ:Section 504 of the Rehabilitation Act - Wikipedia
  • 日本:JIS X 8341-3:2010 解説 - ウェブアクセシビリティ基盤委員会

ウェブは世界のインフラストラクチャに

いまやウェブなくして日常生活や業務はできない。
世界中の人にとって重要なインフラであるウェブがずっと使い続けられるように!

スライド画像:ウェブは世界のインフラストラクチャに

感想、思ったことなど

テーマについて

公式の告知ページを見ると、「アクセシビリティ、そしてダイバーシティへの潮流とあり、このシンポジウムでは、有識者、専門家の意見を交えてアクセシビリティからダイバーシティへの潮流について探る機会を提供します」とある。

私は「ダイバーシティ」というのはいわゆる「多様性」を指すものという事前理解でお話を伺っていた。

第2回「だれもが使えるウェブコンクール」シンポジウム

パネルディスカッションの中で「JIS対応(ひいてはアクセシビリティ)は企業にとってコストとメリットのギャップが大きい」という話が出た。「ボランティアでは長続きしないので、持続可能な取り組みにするにはビジネスとして考えないといけない」という話も。

それこそがダイバーシティ・マネジメントというアプローチで可能になる部分であり、今回のシンポジウムのテーマだったのではないかと受け取っている。

しかし、現時点ではビジネスとして難しいことが分かりきったうえで、これからの潮流として目指していくべき「社会インフラとしてのアクセシビリティ」をテーマにお話いただいたと思うのだが、「技術的には可能だけれどビジネスとしては難しい」という意識が強く受け取れて、ちょっと切ない気持ちになった。

分かりきったうえで、それでも力強いご意見を拝聴したいと思っていたので、未来は明るいという声を聞きたかった私の期待値が高すぎたのかもしれない。厳しさや難しさは、分かってるつもり。

インターネットでの体験はすでにリアルの体験の一部であり、バーチャルであってバーチャルでない部分がとても大きくなっている。人やものが今までにないつながり方を広げている時代。これから現状よりさらに良い体験が可能になるように、誰もがそれを享受できる社会が実現できるように。自分に何ができるか考えて、少しずつでも実践していきたいと思う。

おまけ

個人的に触覚デバイスにとても興味を持っているので、バーチャル白杖やバーチャル点字ブロックのお話に興奮した。こういったデバイスの研究はゲームやエンタテイメントの領域でいくらでも展開できるので、直接的な企業メリットに繋がりやすい分野でもある。逆でもいいんだと思う、エンタテイメント用のデバイスを応用する形でも。

とにかく、こうしたデバイスはどんどん開発していってほしい。デバイスが未来を連れてきてくれるんじゃないかな。とても楽しみ。


参考URL

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