日本ウェブ協会が主催する認知科学ワークショプ「認知科学とデザイン」に参加してきた。講師は多摩美術大学の吉橋昭夫先生が担当された。
認知科学についての講義
前半は認知科学についての講義を座学で。参考図書はドナルド・A.ノーマンの『誰のためのデザイン?―認知科学者のデザイン原論 (新曜社認知科学選書)』。その他のノーマンの著作として『エモーショナル・デザイン―微笑を誘うモノたちのために』も紹介された。
キーワード
- 可視性:やるべきこと、やったこと、やった結果
- 対応づけ
- 概念モデル、メンタルモデル:人間が実世界で何かがどのように作用するかを思考する際のプロセス
- アフォーダンス:環境が動物に対して与える「意味」、人と環境との関係性を示す言葉
- 制約
- フィードバック
- 頭の中の知識と外界にある知識
- 行為の七段階理論
- エラー(スリップ、ミステイク)
講義の内容は1日で理解を深めるのは難しいぐらい奥深く、その後のワークショップも講義の内容を意識して行われた。吉橋先生のスライドから「ユーザにとって難しい作業を、単純なものにする7つの原則」だけ引用しておく。
ユーザにとって難しい作業を、単純なものにする7つの原則
- 外界にある知識と頭の中にある知識の両方を利用する
- 作業の構造を単純化する
- 対象を目に見えるようにして、実行のへだたりに橋をかける
- 対応付けを正しくする
- 自然の制約や人工的な制約などの制約の力を利用する
- エラーに備えたデザインをする
- 以上のすべてがうまくいかないときには標準化をする
グループに分かれてのワークショップ
くじ引きでグループ分けが行われ、4人ほどの人数でディスカッションと演習を行った。
演習課題
持ち寄った「使いにくいもの」「わかりにくいもの」の事例について、
- どのように使いにくいのか?
- それはなぜか? 認知科学の視点で説明してみる。
- 改善するためにはどうしたらよいか?
を認知的な観点から検討する。
私がお世話になったFグループでは、フィードバックや関連付けが適切でない残念なエレベーターについてまとめた。
演習の作業自体も楽しかったのだが、初対面同士で行うグループワークの面白さも体験することができた。名前も覚えきらないぐらいのメンバーなのに、いつの間にか役割分担を作り上げて、共通の問題に向かって建設的な行動を取り、目指すゴールへ向かっている。こんな数時間でそうしたチームを作ることができるのは、社会人ならではなのだろうか。
全グループの発表作品
思ったこと
ワークショップでの作業は楽しいのに、どうして普段の仕事や職場でそのモチベーションやポテンシャルを活かしきれないのだろう。
答えはきっと単純で、組織の中での温度やその組織に属する目的がバラバラだから、なのではないだろうか。ただ、せっかく同じ時代に同じ場所で一緒に仕事ができるのに、向かうべきゴールですらバラバラなのは、やっぱり悲しい。
ワークショップに参加する方々のモチベーションはとても高くて、一緒に作業をしているととても楽しい。そんな体験をしてしまうと、できればこんなふうにチームで同じゴールを目指せる場所で仕事をしていきたいなと考えてしまう。
それって、贅沢なことなのだろうか。そういう欲求自体が普通である社会であってほしい。そんなふうに思った。