蠍は留守です考

蠍の輪郭を見つめてふける思惟の痕跡

20170509013806

場を支配する空気感

空気感というものがある。あれは不思議だ。

以前、ある飲食店で食事をしていたときのこと。お店でミュージックビデオのチャンネルが流れていた。

自分の青春時代に流行った曲は、イントロが流れてきただけですぐにわかる。ハッとするくらい懐かしい思いがして顔を向けると、いくつかのテーブルのお客が同じようにディスプレイに目をやっていた。同年代くらいだろうと思われる人たちだ。

「この曲、いつの曲だっけ」「なんのCMだっけ」テーブルのあちこちで、曲を話題にしている。何曲かそのようなことが続いて、どのテーブルにどんな世代の人がいるか、手に取るようにわかるのがおもしろい。

そのとき、お店は不思議な空気感に包まれていた。それぞれのテーブルから立ち上がった空気がすこしずつ他のテーブルの空気と合わさって、交わって、まるでそのお店を支配するくらい大きく広がっていく。

入店したときには、音楽にもビデオにも気づかなかった。ふとある瞬間がトリガーになって(それは何かの曲のイントロかもしれないし、他のテーブルの人の会話が耳に入ったときかもしれない)、もともとお店にあった空気の一部に自分もなっていくという流れを見て、ひどく不思議な気持ちになったのだった。

空気感。雰囲気。居心地。形はないけれど、場を支配するもの。

それが作られていく過程やキーとなる要素について考えるのは、果てしないけれど楽しい。変数が多ければ多いほど、興味をそそられる。

Copyright © Hitoyam.