蠍は留守です考

蠍の輪郭を見つめてふける思惟の痕跡

20170509013806

空飛ぶ紫の馬

子供の頃、紫色の馬の絵を描いたことがある。通っていた幼稚園で、絵皿を作る時間だった。自分と自分の好きなものを自由に描きなさいと言われ、私は空想の世界でいたらいいのに、と思う空飛ぶ紫の馬を描いた。

結果、先生に「紫の馬なんていないのよ」と長い時間かけて説かれるという状況になった。自由に描いていいと言われたのに。私はただただ悲しかったことだけを覚えている。あの時の悲しい気持ちは、今でも鮮明に思い出せる。

紫の馬がいないことなど、子供の私でもちゃんと知っていたよ。けれど、いたらいいなと思って描いたのだ。いないからこそ描いたのだ。その事実や気持ちをうまく説明する語彙もコミュニケーション能力も持たず、子供時代の私は、ただ悲しいという気持ちだけを奥深くに残した。

今でも時折、その時のことを思い出す。ちなみに先生のことは好きだったし、それ以外に理不尽な叱られ方をした記憶もない。もしかしたら、心理学的な意味で心配されたのかもしれないし、先生には先生の思いがあったのだろう。もしもタイムスリップできたら、あの瞬間の先生に聞いてみたい。どうしてあんなことを言ったのですか? と。

あの時どんな絵を描いたっけな、と思って再現しようとしたけど、ちょっといろいろ損なわれた気がする。なんか、違うんです、こんなんじゃなくて、もっと子供らしいほのぼのした絵だったんです。違うんです。

子供時代の絵を再現...するはずが

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